株式会社エムズプロジェクト

DX導入事例:RFIDシステム活用による棚卸業務の効率化

DX導入 業務改善 RFID活用
クライアント:小売業

本事例は、小売業(約100店舗、工場25拠点、倉庫複数)において、従来の目視・手作業による棚卸作業を、RFID(電子タグ)システムを活用して抜本的に効率化した取り組みです。約200万点の在庫商品にRFIDタグを実装し、棚卸時間を最大90%削減することに成功しました。段階的な導入戦略と現場に寄り添った実装アプローチにより、複雑な環境下でも確実に成果を出すことができました。

項目 詳細
クライアント 全国に展開する小売業
事業規模 全国約100店舗、工場25拠点、複数倉庫
在庫状況 約200万点(SKU数数千点)
会計要件 四半期ごとの実地棚卸が必要
主要成果 店舗棚卸:12時間→1.5時間(88%削減)
倉庫棚卸:2日間→1日(50%削減)
在庫精度:約90%→約99%

課題(Before)

棚卸業務の大きな負担

  • 膨大な作業時間
  • 店舗での棚卸: 平均12時間(営業時間外での作業)
  • 倉庫での棚卸: 平均2日間(専任スタッフ複数名が対応)
  • 四半期ごとに全拠点で発生する大きな業務負荷
  • 人的リソースの圧迫
  • 店舗スタッフの残業時間増加
  • 倉庫スタッフの本来業務(入出荷)の遅延
  • 経理部門での集計・確認作業の集中

在庫精度の問題

  • 理論在庫と実在庫の乖離
  • 一部店舗では10%以上の誤差が発生
  • 倉庫においても数千点規模での不一致
  • 手作業による数え間違い
  • 深夜・長時間作業によるミスの発生
  • 商品の見落としや重複カウント
  • 原因特定の困難さ
  • 紛失、盗難、誤出荷、計上ミスなど原因の切り分けが困難
  • 問題の根本解決が進まない悪循環

システム面の課題

  • 既存在庫管理システムの限界
  • 入出荷データに基づく理論在庫管理のみ
  • 実在庫の効率的な確認手段がない
  • 手書き棚卸シートとExcelによる非効率な管理
従来の棚卸業務の課題
図1:従来の棚卸業務の主な課題

ソリューション

当社は「小さく始めて、大きく育てる」アプローチで、RFIDシステムの段階的導入を実施しました。

段階的導入アプローチ

フェーズ1: パイロット環境構築(2ヶ月)

  • RFID技術の選定と検証(複数技術の比較検討)
  • テスト環境での読取精度・速度の検証
  • 商品特性(材質・形状)に応じたタグ選定
  • 既存システムとの連携方式の検討

フェーズ2: 単一拠点での試験導入(3ヶ月)

  • 標準的な規模の店舗1拠点を選定
  • 店舗スタッフへの操作研修と作業フロー確立
  • 実際の店舗運営の中での課題抽出と改善
  • 作業時間・精度の定量的評価

フェーズ3: 全拠点展開(12ヶ月)

  • 拠点特性に応じた導入優先順位の策定
  • RFIDタグ・リーダーの順次配備
  • 全商品へのRFIDタグ実装(約200万点)
  • 拠点ごとの運用研修と定着支援
段階的導入アプローチの概念図
図2:段階的導入アプローチの流れ

技術ソリューションの概要

<システム構成>

  • RFIDタグ: UHF帯パッシブタグ(耐久性と読取距離を考慮)
  • リーダー機器: ハンディ型RFIDリーダー(バッテリー持続性重視)
  • ソフトウェア: 専用棚卸アプリケーション(オフライン対応)
  • データ連携: CSVエクスポート形式(既存システムとの互換性確保)

運用プロセスの刷新

  • 事前準備

    • RFIDタグ貼付計画(200万点もあり、回転率も異なるため、計画的に実行しないとタグのロスが多くなってしまう)
    • 実環境でのテスト、マニュアル動画の作成
  • 棚卸実施

    • RFIDリーダーによるエリアスキャン
    • リアルタイムの読取状況確認
    • 未読取箇所の特定と再スキャン
  • データ処理

    • 収集データの集計・エクスポート
    • 既存在庫システムとの差異抽出
    • 差異原因の調査・対応
RFIDシステムの基本構成
図3:導入したRFIDシステムの基本構成

導入効果(After)

棚卸時間の大幅削減

88% 店舗棚卸時間削減 12時間 → 1.5時間
50% 倉庫棚卸時間削減 2日間 → 1日
99% 在庫精度 導入前:約90%

業務改善効果

1. 業務効率の劇的向上

  • 店舗での棚卸が夜間作業から営業時間内での実施が可能に
  • 倉庫での棚卸作業が半減し、本来業務への影響を最小化
  • 経理部門での確認・集計作業の負荷軽減

2. 在庫精度の向上

  • 実在庫と理論在庫の一致率が約90%から約99%に向上
  • 差異原因の明確化と対策が可能に
  • 商品の所在追跡が可能になり、在庫の可視化が実現

3. 経営面での効果

  • 人件費削減(本社・店舗スタッフの残業時間減少)
  • 棚卸頻度を高められることで在庫精度がさらに向上
  • 正確な在庫情報に基づく適切な発注・生産計画の実現
  • 管理会計の質向上による経営判断の精度向上

導入ポイント・成功要因

1. 段階的なアプローチ

一度に全拠点導入ではなく、小規模な検証→単一拠点試験→全拠点展開の段階を踏むことで、各フェーズでの学びを次に活かし、リスクを最小化しました。特に商品特性に合わせたタグ選定は重要なポイントでした。

2. 現場に寄り添った実装

店舗スタッフや倉庫作業員の視点に立ち、使いやすさを重視したシステム・運用設計を行いました。特に、リーダー機器の選定では実際の使用環境を考慮し、バッテリー持続時間や操作性を重視しました。

3. 既存システムとの連携考慮

新システムを独立させず、既存の在庫管理システムとの連携を考慮した設計を行いました。CSVエクスポート形式の採用により、追加開発コストを抑えつつ、システム間の連携を実現しました。

4. 継続的な運用支援

システム導入後も運用定着のためのサポートを継続し、現場からのフィードバックを取り入れた改善を続けました。このアプローチにより、システムの受容度が高まり、全社的な効果最大化につながりました。

まとめ

本事例は、アナログ作業の典型であった棚卸業務をRFID技術で革新した好例です。約200万点の商品にRFIDタグを実装し、段階的な導入アプローチにより、大規模環境でも棚卸時間を最大90%削減することに成功しました。同時に在庫精度も大幅に向上し、経営判断の質向上にも貢献しています。

当社は、技術導入だけでなく業務プロセス全体を見据えたDX支援を行い、お客様の業務課題を効果的に解決します。物流・小売業における在庫管理や業務効率化についてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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